その日、僕の目の前に姿を見せた彼は、メールのメッセージと印象と
ずいぶんと異なる、人なつっこい感じの方だった。
カフェに移り話し始めたものの、最初はお互いに間合いをとるのに少し苦労した。
しかし、少しづつ彼の舌は滑らかになり、いろいろと話してくれたのだった。
彼の思いを要約すると・・・
「今まで自分はどの組織でもTOPに近い成績を残してきた。その経歴を引っさげ
今の会社(大手ITメーカー)に新規事業企画として入社したが、もどかしい日々を送っている。
自分が正しいと思うこと、儲かると思うことをいくら提案しても、回りが全く理解してくれない。
このまま放っておけばビジネスチャンスを逃すだけでなく、この会社自体もどんどん収益体質が悪く
なっていくのではないかと思うのに誰も動かない。今まで、自分が「正しい」と信じたことを進めて
いけば結果が得られると思っていたが、そうでない世界を体験し、どうしていいかわからない。
ひょっとしたら自分はおごっていたのかもしれない。とはいえ、こんなこと誰にも相談できない。
同年代の仲間、今までの会社で一緒に仕事をしてきた仲間からは、自分は『できる』と思われているし、
弱いところを見せたくないので相談できない。本当に悩んでいる」ということだった。
僕は不思議な気持ちになった。彼は僕自身の悩みを話しているかのようだった。
自分と同じを持っているということは、僕は彼になんの助言もできないはずなのに、
彼のことはやけに客観的に見えたのだった。
当たり前のことだが、人間自分のことが一番わからない、ということにあらためて気づいた。
だから、誰かに相談することで自分のことを整理するのだ。
僕は思いつくまま彼にいろいろな投げかけをし、そしてまた彼に対する自分の考えを話した。
彼はいくぶん整理がついたようだった。
それにしても、30代というのは微妙な年代なのかもしれない。
友人というのは時として「ライバル」になる。
なかなか自分の弱さをさらけ出すことはできない。
誰かに自分の気持ちを話したいが、そうした環境はなかなかない。
30代は孤独なのかもしれないな、とあらためて感じた一日だった。
帰りがけ、彼に握手を求められた。
この仕事をしていてよかったと思った。
ちなみに僕は彼にこんなことを話したように記憶している。
「あなたの今の目標は大きすぎませんか。」
「大きな目標を達成するために、小さな成功を積み重ねたらいかがですか。」
「今のままでこの会社を辞めてしまったら、敗北感だけが残りませんか。」
「権限を得たら、本当に周囲を動かせるのですか?今のあなたでも動かせるものがありませんか?」
「自分を追い込みすぎていませんか。」
そして、しばらく転職はせず今の会社でがんばってみることを勧めた。
彼はこれからどうするのだろう・・・?